あの頃、MTはただの機構じゃなかった。
ギアを選ぶたびに、心も選び直していた。
──そんな「操る楽しさ」に魅せられた僕たちにとって、MTはまるで信仰のような存在だった。
今もふと、渋滞中に左足がクラッチを探してしまう。
それはもう癖ではなく、“記憶の疼き”に近い。
そして、2026年。新型プレリュードが帰ってくる。
スペック表に「MT」の文字は、どこにもなかった。
──それでも、僕はステアリングを握った瞬間にこう思った。
「これは、MT好きの魂をくすぐるクルマだ」と。
なぜそう感じたのか?
今回は“手で操る快感”を、令和の技術で蘇らせたプレリュードの真価を、MT信者だった僕の目線で深掘りしていこう。
なぜ新型プレリュードにMT(マニュアル)が搭載されなかったのか?
「スポーツカー=MT」は、かつて僕たちの熱情だった。
でも、新型プレリュードのスペック表に「6速マニュアル」の文字はなかった。
時代の文脈と技術の進化が、この選択を導いたんだと感じている。
主因は、ホンダの全面的な「電動化方針」だ。搭載されるのは、2.0L直列4気筒+デュアルモーターからなるe:HEVハイブリッド。シビックやアコードでも採用されたこのシステムは、モーター駆動での滑らかな発進がメインとなるため、伝統的なMTとの親和性は低い。
ホンダのグローバル・バイスプレジデント、電動化担当のShinji Aoyama氏も、「新型プレリュードにマニュアルは用意されない」と明言している。これは単なる噂ではなく、公式な開発方針の表明だ
だからこそ、ホンダが選んだのはクラシックなシフトフィールを再構築する方向だった。物理的なギアではなく、電子制御による「意志がすぐさま加速へ変わる感覚」。これこそが、静かだけれど鋭く反応する未来型の“操る喜び”だ。
もちろん、MT信者の僕としては、少しだけ寂しさもあった。
でも、実際に走り出して思った。──「これ、MTより響くかもしれない」と。
S+シフトとは?“疑似MT”を超えて“体験”になる仕掛け
新型プレリュードには物理的なMTはない。だが、驚くほど“操る楽しさ”に満ちている。その秘密こそ、「Honda S+Shift」という次世代e:HEV専用のシミュレートシステムだ。
Hondaが2024年12月に世界初公開したこの技術は、2025年発売予定のプレリュードを皮切りに、次世代e:HEV搭載モデルへ順次展開される予定だ
仕組みはこうだ。ステアリング裏のパドルを引くと、e:HEVシステムが瞬時にエンジン回転数を制御。アクティブサウンドコントロールが迫力ある擬似エンジン音を響かせ、メーターも連動して高揚を演出する。まるでクラッチを切ってギアを選ぶような感覚──それを電子の力で再現しているのだ
さらに、Top GearやWhat Car?のレビューでは、「あたかも8速トランスミッションのように“感覚的に変速するフィール”が味わえる」と記されている。
僕が初めてパドルを引いた瞬間、“カチッ”という手応えはない。でも、エンジン音が鼓膜に響き、アクセルに連動した反応が心と結ばれる。
──その瞬間、僕は思った。「これは、MTじゃない…けど、MTだった」と。
S+Shiftは単なる疑似シフトではない。五感を刺激し、意志と反応が“直結したと感じる体験そのものに昇華させた仕掛けなのだ。
なぜ“S+シフト”がMT派の心に響くのか?
MTを愛する者が求めるのは、ただの操作感ではない。
──「自分の意志が直結する瞬間」
その核心を、S+シフトは清々しいほど鋭く捉えている。
Hondaが掲げるe:HEV新世代モデル初採用となるこのシステムは、加速・減速時にエンジン回転数を緻密に制御。ASC(アクティブサウンドコントロール)とメーター表示が同期し、まるで8速マニュアルを操っているかのような錯覚すら覚えることが、多くの海外レビューで指摘されている(What Car?)。
さらに、Car WatchやWebモーターマガジンの初試乗レポートでは、S+シフトが高速コースでもワインディングでもステップ感あるシフトフィールと即時レスポンスを実感できると絶賛されている。
僕がパドルを引いたその瞬間、クラッチは無くても、心がギアチェンジを選んでいる感覚があった。
“操作のプロセス”ではなく、“意志と反応の一体感”。
それこそが、MTの本質であり、S+シフトが現代において再構築したものだ。
だからこそ、S+シフトは“擬似シフト”の域を超えた。
それは五感を揺さぶり、あなたの意思とクルマをダイレクトにつなぐ“体験”だ。
開発者の想いと、“スポーツカーの進化形”
新型プレリュードには、過去を讃えるだけではない
「未来に向かって響くスポーツスピリット」が込められている。
このプロジェクトは、まず“ハイブリッド時代にふさわしいスポーツカーをつくる”という強い意志から始まった。
その段階では、ボディも名称も未定だったという。だが、開発者たちは「人を動かすクルマ」を作るという目的に忠実であった。
開発責任者 山上智行氏はこう語る:
「‘走る喜び’を、次世代のe:HEVでどう表現するか? MTではなくても、魂のようなものは残したかった」
——そうして彼らは、名前が「プレリュード」である必要はないとすら考えていたが、伝統と現代の融合としてこの名が最適と判断した。
山上氏はさらに、機械的な速さよりも
“クルマと対話し、意志を伝えられる瞬間”を重視したと言う。
そしてシャシーには、Civic Type R直系のデュアルアクスル式フロントサスやブレンボ製ブレーキを採用。
モーターとエンジンの協調制御により、「走る歓び」をリズムとして体現する。
Honda公式も、S+Shiftは
「次世代e:HEVの全モデルへ順次搭載され、ドライバーとの一体感を際立たせる技術」と明言している。
その狙いは、性能ではなく“意志と反応の一致”だと。
つまり、MTがなくても、
精神としてのMT(Modern Transmission)を現代の技術で具現化したのが、新型プレリュードなのだ。
僕が感じた「これはMTじゃない、でもMTだった」
MTがないスポーツカーに乗る日が来るなんて、若い頃の僕なら鼻で笑っていたかもしれない。
──でも、プレリュードに乗ったとき、心が不意に震えた。
それは“クラッチを踏む悦び”じゃない。
“意志が伝わる歓び”だった。
右足が語りかけ、パドルが応える。音が、振動が、光が、「今だ」と僕にささやく。
あの頃、左足で踏み込んでいた一瞬が、別のカタチで僕の中に蘇る。
S+シフトは、MTではない。
でも、その機構の奥にある「操ることへの執着」だけは、誰よりも強く宿っていた。
だから僕は言いたい。
これはMTじゃない。
でも、“MTの魂”を受け継ぐ、新しい伝達装置だ。
人生もまた、ギアチェンジの連続だ。
古いギアを捨て、新しい段に入れる時、僕たちはいつも迷う。
それでも、自分の意志で選び、前へ進んでいく。
このプレリュードもまた、
“マニュアル”というカタチを超えて、「操る意味」そのものを問いかけてくれるクルマだった。
まとめ:左足はもう動かさない。でも、心はまだ動く。
新型プレリュードに、6速MTはない。
だけど、ステアリングを握ったとき──僕は確かに“あの感覚”を思い出した。
Honda S+シフトは、クラッチもレバーもないのに、
ドライバーの意志をクルマに伝える“回路”のような存在だった。
MTが好きだった人ほど、この車に驚くだろう。
そしてこう思うかもしれない。
「これはMTじゃない。だけど、MTより自分の意志が反映されてる」と。
人生と同じように、走り方にも“進化”がある。
プレリュードは、懐かしさに甘えず、
“操る喜び”を未来のカタチで継承した、まさに“前奏曲”のようなクルマだった。
よくある質問(FAQ)
Q1. 新型プレリュードにMT(マニュアルトランスミッション)はありますか?
A. いいえ、6速MTの設定はありません。
代わりに、Hondaが新開発した「S+シフト」というパドル操作による“擬似マニュアルフィール”が搭載されています。
Q2. S+シフトって、本当にMTのように感じられるんですか?
A. 感じ方は人それぞれですが、実際に僕が体験した感覚はこうでした:
「ギアを選ぶという行為ではなく、意志がクルマと通じる感覚」。
操作に対するレスポンス、音、振動──五感で“操ってる”と思える仕掛けが散りばめられています。
Q3. 新型プレリュードはスポーツカーとして満足できますか?
A. はい。足まわりにはCivic Type R直系の技術が採用され、ハイブリッドでありながら高いコーナリング性能と安定感を持ちます。
「電動でも、魂はスポーツカーだ」と言える一台です。
Q4. プレリュードという名前がついた理由は?
A. Hondaの開発陣は当初、この車に「プレリュード」の名を与えるつもりはなかったそうです。
しかし最終的に、“人を動かす前奏曲”としての本質が、かつてのプレリュードと重なり、その名を受け継ぐことになったとのことです。
Q5. 従来のMT派にとって、この車は「買い」なのでしょうか?
A. 答えは“YES”です。
左足で操ることにこだわってきたあなたの心にも、このクルマは新しい熱を灯してくれるはず。
──これはMTの進化形。魂で走るための、新しい伝達装置です。



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